海岸沿いの出会いは突然に。 蘭奈
江ノ島水族館前では富士山が見えるほど天気がいい日だった。海での練習帰りのあとは疲れもあり、とぼとぼ1人で歩く。
すると前からじーっと視線を感じる。
背が140cmくらいの白髪のおばあちゃん。70歳くらいであろうか。見覚えもなく、ただただ見つめ返す。
「これ見るとうちの息子を思い出すねえ。」
と私のボードを叩きながら話しだす。
私は「傷が入りませんように。」と心の中で願いながら女性の話に耳を傾けた。
女性の息子は元々茅ヶ崎でライフセービング活動に没頭していたそうだ。しかし息子は現在、中国政府で働いており、仕事が忙しいため連絡が取れないそうだ。ふと見た表情は息子好きな母親の顔だった。
しかしすぐおばあちゃんの顔に戻り、続けて中国の街の様子について語り出した。
「中国はすごいよ〜〜。日本の有名な企業ばっかりあるんだよ〜〜。」
と、話す。この女性は昔中国に住んでいたのだろうか。やけに詳しい。なかなか接点のない年齢の方から普段聞かないような話を聞く。全てが新鮮で私の相槌は止まらない。
きっとこの女性が、高校生が好きな芸能人について語っているかのようなキラキラした瞳と興奮した口調で話すからであろう。何度も同じ話をするが、それほど女性は興奮した様子であり、息ができているのかわからないほどの間の入れ方で話していく。私はついつい女性のペースに引き込まれてしまった。
そして女性はひとしきり話し、
「こんな知らない人にいきなり話しかけられてする立ち話もいいでしょう。ねぇ。」
と少し強引に私に共感をさせ、満足したのかその場を後にする。
その後ろ姿は、漫画であったら音符が出ているぐらい活き活きとした背中であった。
私は突然の出来事に驚くも、自分の所有物が他者の思い出の糸口と活力になったという嬉しさで心はいっぱいになった。
今日も1日頑張れそうだ。