都会の鳥、日本橋のギャラリー 飛鷹
日本橋の再開発が始まってから10年以上が過ぎたそうである。コレド日本橋を初めとする商業施設や整備された道路は美しく、所々に五街道の起点だったことを意識した提灯や組み木などのデザインがあしらわれ、歩く人々を楽しませる。
しかしその再開発エリアからあぶれた路地に「それ」はあった。日本橋のオフィスビルが作る高圧的な印象とちぐはぐなほど可愛らしいこぢんまりとしたギャラリーだ。店内は明るく、小さい作品が主でふらっと入ってしまう。一週間に一度企画展示が変わり、仕事に疲れたOLなども昼休みによく立ち寄るのだそうだ。初老の穏やかな店主は会話の中で言った。
「芸術は美術館で観るものと思ってる日本人は『ふらっと』ギャラリーに入らないでしょ? ここでお店を開くと昼休みにふらっとオフィスの人たちもギャラリーに訪れる。そうやって人々の芸術への感性や入りやすさを育てる、っていうのかな」
店主の言葉にどきりとする。私もまさにこのギャラリーに「ふらっと」入ってしまった客の1人だったからだ。頷きながら、優しげな風貌とは裏腹に、むしろこの日本橋だからこそ店を構えた店主のしたたかさを想像してみる。作られた街だからこそ、その意図を乗り越える人の願いや……誤解を恐れずに言えば思惑が生まれ、息づいている。まるで山を追われたカラスがハンガーで巣を作り都会の屋上に生きるように、日本橋のギャラリーはそこにある。