1、近くて遠い隣人
数回にわたり、「在日外国人の今」というテーマでお届けする。初回となる今回の舞台は群馬県の大泉町。大泉町周辺は、SUBARUやPanasonicなどの大工場があることを背景として、日系ブラジル人が集住していることで有名な地区だ。
大泉町と私の地元は県境を隔てて隣接している。にもかかわらず、双方を結ぶバスは一日に10本となく、朝夕を除けば2時間に1本という程度。私にとっては小さい頃から「近くて遠い隣人」だった。恥ずかしながらその「隣人」に対して関心を持つきっかけは、高校の授業で、大泉町が「日系ブラジル人との共生を実現しかけている町」として紹介されていたことにある。特に地元の高校に進んでいない私が、隣町の思いもしない情報を全く関係のない地域で知った恥ずかしさ。それがのちに取材をする動機となる。
私の地元、埼玉県北部の市から車で30分、西小泉駅に到着する。まず飛び込んできたのは、ポルトガル語をはじめとした多言語表示の案内板だった。駅を出ればすぐに日葡両語(「葡(ぽ)」はポルトガルを意味する。以下同じ)で書かれた個人商店の看板が目に入る。これが本当に私の隣町か?と疑ってしまう光景だ。小さい頃に訪れていたはずだが、当時の私にはこの日葡バイリンガル表記はあまり響かなかったのだろうか?そう思うほどまでに、寂れかけたその街の雰囲気と、日葡両語の看板が連続する光景はミスマッチだった。
一通り街を歩き、駅前に戻りかけていた時のことだ。そろそろ見慣れてき日葡バイリンガルの街の中に、思わず写真を撮りたくなる光景があった。ポルトガル語のみの値札が並ぶ、個人経営の八百屋だ。聞けば、経営しているのは、元々この町で八百屋を営む高齢女性であるという。コツコツとポルトガル語での野菜の呼び方を覚え、新たな「隣人」―そう、日系ブラジル人―の方々が安心して購入できる環境を整えてきたと言うのだ。
その後訪ねた観光協会の職員の方は「大泉町での共生はまだまだだ」とおっしゃった。確かに「隣人」に対して心無い言葉をかける人々は存在しているし、教育面や待遇面での格差は存在している。しかし、この小さな八百屋は確実に、共生の方向性を示しているのではないだろうか。私がかつてそうであったような「無関心」から脱却し、相互に理解するよう努めること。八百屋は我々に対して「共生」の在り方を問いかけているように思えた。